はいみなさんこんにちは※,3年の+9です。このたび,ヨーロッパ物理オリンピック(EuPhO)に参加してきたので,その報告をしようと思います。
※我らが物理教師のYouTubeチャンネルの出だしのフレーズ
参加の経緯
まず,なぜこの大会に参加することになったのか?3月に行われた代表選抜を通過し,国際物理オリンピック(IPhO)の日本代表になったわけですが,IPhOはコロナにより延期になってしまいました。この延期というのが「1年延期」すなわち,今年のIPhOが開催地も含めて来年度にそのまま移されるというものです。なので,現在高3の僕がIPhOに参加することは不可能になってしまいました。
まあしょうがないかーと思いつつ過ごしていたある日,めったに使わないFacebookをたまたま開いたところ,EuPhOに関する投稿が流れていきました。
EuPhOってヨーロッパ?
調べてみるとその通りらしい。さらに,投稿によると,EuPhOが今年は全世界からゲスト参加を受け入れるというのです!
やったー
ということでEuPhOに参加できることになりました。
試験まで
EuPhOはこれまで対策してきたIPhOとは大きく傾向が変わります。IPhOは小問がいくつもあって,誘導されていく形式なんですが,EuPhOは大問1個がどどーんとある感じです。めっちゃむずいです。現象の概要とモチベが与えられるので,それに沿って近似やモデル化をかなり頑張らないといけません。先生によると,EuPhOは東欧の「寡黙で精錬されたランダウ学派」の色が出ているらしいです。そう言われるとちょっとワクワクしますよね。
楽しめる物理問題200選という東欧の物理問題集が対策にぴったりだったので,それで勉強しました。なかなか面白い問題が揃っています。大きな書店には置いてあると思うので,みなさん一度解かれてみることをお勧めします。
本番
あっという間に本番が来てしまいました。オンライン開催のため,日本代表は名古屋に集まって試験を受けました。試験の様子は録画され,常時本部に送られます。
1日目は理論試験でした。IPhOと同じく,試験時間は5時間です。今まで何回も5時間の試験を受けてきましたが,今回は今までよりはるかに集中していたせいか,一瞬でした。個人的には比較的うまくいったと思っています。ただ,時差の関係で午後4時から9時までだったのが,朝型の僕には辛かったです。ご飯を食べてホテルに帰ったのが11時で,明日絶対睡眠不足だなーとは思ってました。
2日目は実験試験でした。これも5時間です。オンライン試験ということで,実験はコンピューター上でのシュミレーションでした。なかなか楽しかったですが,力学の問題がよくわかりませんでした。全体的にも,あまりうまくできなかった印象です。昨日もっと早く寝るべきだった(反省)。
以下は僕の答案の一部です(めっちゃ急いで書いたんで字がとても汚いです。普段から綺麗というわけではないが)。
お家に帰るまでが試験…ではありません
この通りで,お家に帰るだけでは試験は終わりません。というのも,このあと4日間に渡る得点交渉という大事な作業があるからです。得点交渉とは,採点官から開示された得点状況をもとに,「ここは部分点が来るはず」などの交渉を行うイベントです。IPhOやEuPhOの答案はその生徒の母国語で描かれるため,採点者は式と数字だけをみて採点します(逆にいうと,これができるのが物理・数学の強みですが)。しかし,自然言語に対しての加点や,逆に不本意な減点が入っていることもあるので,一度母国語側でチェックしてもらうのです。
例えば,運動量保存則の式が書けていなくても,「〜に関する運動量保存則が成り立つ。」と書いていれば,部分点が来るかもしれません。しかし,当然欧米の人は「運動量保存則」と書かれても読めないわけで,得点交渉でこちらが「conservation of momentum」がclearly statedされているということを主張する必要があるわけです。
IPhOでは,得点交渉は先生方によって行われますが,EuPhOでは生徒1人ひとりが行います。そこで,家に帰ってからはまず解答例を読んで自己採点し,その後届いた採点結果と自分の答案のスキャンを自己採点と比べ精査する,という精神的にも体力的にも辛い作業がありました。やっぱり自分の解答を見直すのって辛いんですよねー。試験時間が5時間で,しかも問題が激ムズの試験で書いた答案を読むと,辛い場面がフラッシュバックしてさらに辛いんです…
僕の場合,自己採点の段階での得点は22/50。低っと思われるかもしれませんが,これでトップ25%に与えられる銀メダルは確実です(最高点が37〜40/50くらいです)。金は到底届かない点数なので,「銀か〜」って思ってました。正直なところ,悔しさはなく,安心しました。
ところが!返ってきた採点結果は26.2/50!
まじか〜
このときの心境としては,嬉しさより不安が大きかったです。というのも,一昨年の金メダルボーダーが25/50,昨年は27/50と,明らかに金ボーダーの淵に立っていたからです。
これ,もし1点差とかで銀だったら精神崩壊するわ…
とひたすら不安でしょうがなかったです。そして迎えた得点交渉では,先生や先輩方のご協力も虚しく,0.1点しか上がりませんでした。26.3…
うーん,きついー
っていう気持ちでした。その日の午後には閉会式。ここで結果発表があります。順位表が下から読み上げられていきます。まず,優秀賞の発表。名前と得点の表が上にスクロールされていき,しばらくすると区切りの線が見えます。線の上は銅メダル。もう一度線が入って,そしていよいよ銀メダルです。銀メダルの序盤は,銅のボーダーと銀のボーダーが例年より低いことから,
え,これいけるんじゃね?
って思ってました。しかし,銀の後半になって突然得点の増加速度が急上昇。23,24,25と非情にも得点は上がっていき,僕の得点26.3までもう少し…もう精神がやばい!!!緊張!!!
とそのとき,突如としてある参加者とある参加者の間に線が見えました。
あ,金だ
漫画の心中セリフに出てきそうな言葉ですが,本当にそういう気持ちでした。というか,極度の緊張状態でそれしか思い浮かびませんでした。ちょっと時間が空いて,運営の人が”These are the silver medalists!” と言います。
金メダルです!
主語がないのでこんがらがってますが,僕の名前が呼ばれないまま”These are the silver medalists”ということは,僕は金メダルということです。やったー!!!
エピローグ
てなわけで,金メダルでした。後からわかったんですけど,実は得点交渉でもうちょっと上がってたらしく,最終的な得点は26.5/50でした。金ボーダーが26.3/50だったので,もし最初の得点のままだったら危なかったかもしれませんね。得点交渉に感謝!
ただ,僕の上にもう一人日本代表がいたのは悔しかったです。反省すべき点も多くありましたし,いまだにIPhOがなくなってしまったのは残念ですが,メダルや名古屋土産などの物質的なものをはじめ,経験の面でも色々なものを得られた大会でした。